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大腸癌診療におけるQuality Indicator(QI)の策定

主任研究者 杉原健一、石黒めぐみ
東京医科歯科大学大学院腫瘍外科学

わが国における大腸癌診療の特徴

 国内における大腸癌罹患率は年々増加しており、2005年の大腸癌罹患数は約11.5万人と報告されている。また、癌の臓器別死亡率でも肺癌、胃癌についで3位、女性では1位となっている。

 大腸癌診療においては、手術手技が比較的容易であり、系統的リンパ節郭清(D3郭清)が標準術式として普及していること、手術侵襲が過大ではないこと、他の消化器癌や肺癌に比して比較的予後良好な癌であること、そして罹患数が多いこと等の理由から、手術の多くはがんセンターや大学病院ではなく、地域の中核病院を含めた一般病院で行われているという特徴がある。

 大腸癌診療の均てん化を促進する目的で、2005年7月に「大腸癌治療ガイドライン(医師用 2005年版)」が出版され、日常診療の指針となっている。がん医療水準の均てん化を図るためには、ガイドライン作成は「標準的治療の普及」という第一段階であり、次の段階として、ガイドラインとして記載された診療が実際に行われているかどうかを検証する必要がある。

 当研究班では、こうした検証のための「診療の質指標(Quality Indicator:QI)」の作成を目標としている。ここでいう「診療の質指標」とは、一定の条件を満たした患者(年齢、合併症、病期(Stage)など)に対し、標準的に行われることが推奨される医療の一部を抜粋したものである。その実施率は、施設の提供する、あるいは患者の受けている診療の質を表すように意図されている。ガイドラインとは表裏一体をなし、相補い合いながら診療の質向上を目指す取り組みである。

 

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専門家パネル委員の選定

 専門家パネル委員の選定には、大腸癌診療に携わる外科医・内科医(内視鏡医、化学療法医)を網羅し、さらに所属施設の形態(大学病院、がんセンター、地域病院など)や地域にも偏りのないように配慮した。また、大腸癌診療を専門としない2名の外科医も委員とした。


大腸癌専門家パネル委員の構成(敬称略)

 固武 健二郎    栃木県立がんセンター 外科
 渡邉 聡明  帝京大学 外科
 西村 元一  金沢赤十字病院 外科
 杉田 昭  横浜市民病院 外科
 中島 祥介  奈良県立医科大学 消化器・総合外科
 為我井 芳郎  聖隷横浜病院 内視鏡センター
 田中 信治  広島大学医学部附属病院 光学医療診療部  
 近藤 仁  斗南病院消化器病センター
 朴 成和  静岡県立静岡がんセンター 内科
 冨田 尚裕  兵庫医科大学 外科
 赤須 孝之  国立がんセンター中央病院 大腸外科

 

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QIの策定にあたっての留意点

評価対象のレベル

 QIが対象とする診療の質をどのレベルに設定するかという点が出発点であり、わが国において大腸癌診療の指針とされる「大腸癌治療ガイドライン(医師用 2005年版)」に記載されている診療内容を担保すべき「一定の診療の質」と見なす立場で臨んだ。

 

Consensus-basedな視点

 大腸癌診療においては、化学療法などの一部の分野を除き、ランダム化比較試験等による直接のエビデンスが不十分なのが現状であり、「大腸癌治療ガイドライン(医師用 2005年版)」も、大腸癌研究会・全国登録などのretrospectiveなデータを間接的なエビデンスとして、専門家によるconsensus-basedという立場で作成されている。QIの策定に際しても同様の考え方に基づき、専門家パネル委員11名を招集し、十分な議論、検討を行い、がん診療連携拠点病院において大腸癌診療を行う上で「一定の診療の質」を担保できる内容として、がん診療専門家のコンセンサスが得られたものとした。特に、直接的なエビデンスはなくてもコンセンサスにより標準治療として確立していると考えられる事項は、専門家パネル委員の十分な検討にて「専門家によるコンセンサス」が得られていると判断した事項をQIとした。

 

海外との差異

 わが国の大腸癌治癒切除症例の5年生存率は約80%であり、欧米と比べて10~15%程度良好である。これに関しては、画像診断・病理診断技術の違い、わが国では系統的リンパ節郭清(D3郭清)がStage II 以上の大腸癌に対する標準術式として普及していること、進行直腸癌に対する側方郭清が一般的に行われていること等が理由として考えられる。その他、術後サーベイランスの頻度(intensity)や転移・再発大腸癌に対する治療戦略なども、わが国と欧米では異なっている。

 このため、欧米のエビデンスや先行研究における既存の指標を、そのままわが国に外挿するのは適切ではない。しかし、欧米でも有病率の高い大腸癌は、先行研究のQIが比較的豊富にある分野でもある。そこで、先行研究としては、McGoryらがJournal of National Cancer Instituteに2006年発表したQuality Indicator(McGory et al. JNCI 2006;98:1623-33)、ASCOのNational Initiatives for Cancer Care Quality (NICCQ)、および Assessing Care of Vulnerable Elders-3(ACOVE-3)プロジェクトの大腸癌QIを主に参照した。これら欧米の既存の指標を、国内外の相違を念頭に置いた上で、わが国の医療の視点から吟味し、わが国の標準治療としても通用する事柄はそのまま取り入れたり、わが国の実情を反映して適宜変更を加えたりすることで、QIの候補とした。大腸癌治療ガイドラインからの推奨する診療内容からもQI候補を作成し、最終的に専門家パネル検討会のための61のQI候補を作成した。参考とした先行研究は該当するQIの項に示す。

 

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まとめ

 今回、既存の指標やガイドラインを参考に61のQI候補を作成し、その後、11名の専門家パネル委員によるパネル検討会議において十分な議論、検討を行い、最終的に45のQIを確定した(構成=初期評価:10、手術関連:16、放射線関連:1、内視鏡治療:4、薬物療法関連:6、サーベイランス関連:8)。

 これら45のQIは、海外の先行研究における既存の指標を参考にしつつ、わが国の実情に沿った内容となるように適宜変更し、専門家パネル委員の評価によってQIとして適切と判断されたものである。これらに、「大腸癌治療ガイドライン(医師用 2005年版)」からわが国における標準的治療のポイントとなる部分を抽出したQIを加え、診断、手術・術後管理、化学療法、放射線治療、サーベイランスの各分野を網羅した大腸癌診療均てん化への貢献を強く意識したものとなっている。

 

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